2003年度 活動報告

1. 概要 

 児童・生徒が加害者であり、また被害者であるような不幸な事件が多発して問題となっている中、本年度も、7月に沖縄県北谷町で中学生数人が遊び仲間の男子生徒を殺害し遺体を埋めた事件、同月長崎市で中学1年男子が幼稚園児を立体駐車場から突き落とし殺害した事件、10月には河内長野市で大学生と高校生男女による家族殺傷事件が起こるなど、大変に気の重い1年であった。これらの事件を、私たち大人は、しっかり受け止め、2度と起こさないように考え、努力し続けたであろうか。

社会はこれらの事件を家族社会学の面から、また精神医学、臨床心理、刑法の面等々から論議し、その中で事件を理解したようなつもりになって忘れ去っていく。そして忘れた頃にまた取り返しのつかない大きな事件を子ども達に起こさせる。そこに大人は自分の問題として何も関与しない。やはり私たち大人が、自分の問題としてしっかり受け止め考え続ける姿勢を今一度取り戻さなければならないのではないか。

まだ大人になりきらない中学生の起こした事件であり、それはこの子らには受け止めきれないような大きな問題である。深刻な問題であり社会の不幸なできごとであるからこそ大人の責任として考え続け、彼らとともにその罪を償っていくことが求められているのではないだろうか。私たちとは無縁であるといって切り離したり排除することは許されない。

私たちは問題をしっかり受け止め自分のこととして考え続けることで社会とつながっていくことをしなくなった。家庭も同様であり、困難を抱えて考え悩みその中で親と子の絆が深くなっていくような忍耐強さを持っていない。不登校に陥った子ども達は、学校に行けなくなって父母や学校の先生たちから「なぜ学校に行けないのか」と問われる。しかし、自分でもわからないから「答えられない」。また、周囲はそれ以上のつながり方を知らない。ワンパターンの対応からはつながりは生まれず徐々に排除されていく。その結果子ども達は、自分と学校、自分と友達、自分と家族の間に決定的な壁を作ることになる。一方、自分の内面においては不登校という現実から自分を切り離し、安定を得ようとするが、中学生くらいになると、現実の自分の叫びは大きくなり、自分自身の中で乖離が起こってしまう。そして、統合できない自分を冷静に分析し自分で道を開く力もなく、学校へ行くのが当たり前であり、良いことであるという価値観の前に、無力な自己を見、更に閉鎖的になり、自己に対しての絶望感を深くしていく。学校へ行くのが当たり前でよいことであるという価値観は、必ずしも否定すべきものではないが、現在のその子どもの状態に対してよい価値となりうるかどうかは別である。

 ここ2、3年の不登校の子どもの様子を見ていると、不登校の要素を多くもっていて不登校になるというより、学校・家庭・社会の力のなさによって、不登校の域に閉じ込められている場合が多いように見える。

そして、平成153月に文部科学省より「今後の不登校への対応の在り方について」(報告)が出され、その中で
・個別に対応し、個々の成長を図る。
・中学卒業後の支援の必要性
1人の児童・生徒に対してチームを組んだ支援
などの文言に注目した。

従来、本校では、中卒時に未だ社会性・協調性などが充分育っていなくて、家から出られないとか別室登校もできなかったような生徒をそのまま放置するのではなく、原籍校と協議の上、受け入れ教育してきた。そして高校へ進学する、または就職するまでの力をつけてきたのであるが、この報告によりその重要性を確認した。平成15年度もこの点は踏襲した。

 不登校への多様な対応を認めつつ本校の独自性として、人間教育に重点をおいた支援を行ってきた。それは、あるがままの自分自身に気づき、他者に心を向け、人間の尊厳に触れ、人を信じ、人々と共に生きていく人間になるという基本的な姿勢を身につけることである。

 このように考え、文部科学省の指導にあるように、「子どもが不登校を克服していく過程でどのように成長するかという視点を重視」し、人間形成の基礎を培うことを主眼として、次のように教育にあたった。

@不登校という「学校に行けない現実」を、本人と家族がしっかりと受け止め、その困難に1人の人間として真剣に立ち向かうことで、まじめなものの考え方や心のあり方を身につける。
A学校に戻れる、戻れないなどの、目に見えることを越えて、1人の人間を教育することに徹する。
B困難に陥っている生徒だからこそ、教育の原点に戻り、他との比較や競争ではなく、ゆっくりとした自己成長を遂げさせる。
C人間は同質ではないから、効率のよい成長などはありえない。様々な体験学習を通して、多様にその人間の深さに向かい、質的に自己形成されるようにする。
D学んでその結果、何かができるようになることが大切なのではなく、「学んでいる時」そのものに価値がある。「学びつつある時」を充実させる。
E学校という社会と自分とどういう関係を作るかを学ぶ。

 本年度は、通学した生徒7名(中2〜17歳)と、主に保護者の定期的な教育相談を中心に指導した生徒14名であった。その中で、教育の力のみでは困難な事例も出現し、京都ノートルダム女子大学心理センターとの連携をとるに到った。いずれにしても、自分の不登校と向き合い、自分を見つめ考え課題をつかむのに時間がかかった年であった。

2. 指導生徒および教育相談件数 

  保護者の教育相談は2週に1回、あるいは、1か月に1回と、それぞれに応じて行った。子どもを理解することや不登校という現実を受け止めるためには継続した教育相談が必要である。不登校という現実の中から子どもを成長させていくためにはその特徴をよく理解し、子どもの歩みと共にあろうとする保護者の姿勢が欠かせない。そして、子どもの行動に変化がみられるようになるためには、それまでの変化のない日々を注意深く過ごさねばならない。私たちが保護者の支えとなり、彼らが新たな理解と意欲を持って子どもと向き合うことができるように願って続けた。学校・教師の相談については、子ども11人への理解を深め、原籍校としてできることがつかめるようにアドバイスした。

<指導生徒> <準指導生徒> <教育相談>
(通学した生徒) (主に保護者を通じた指導) (電話相談を除く)
綾部市立八田中学校 2年 1名 小学4年  1名 保護者  129名
舞鶴市立城北中学校 2年 1名 小学5年  2名 学 校    71件
舞鶴市立和田中学校 2年 1名 小学6年  3名 一 般     3件
舞鶴市立城北中学校 3年 2名 中学1年  7名
綾部市立何北中学校 3年 1名 中学2年  3名
高校中退17歳        1名 中学3年  1名
高校1年  3名
高校2年  2名
    計            7名    計  22名   計    203件




   調理実習


3. 日課 

 生徒の状況に応じて柔軟に組んでいる。基本的には、午前・午後の活動に分けている。半日のみ登校していた生徒も、徐々に一日登校型になるよう、ゆるやかに学校生活を広げていけるよう配慮している。

 特別授業や校外学習を除いて、生徒は<月〜金曜日>が登校日である。<土・日曜日>は保護者・教員・一般の方の面談・教育相談日としている。

<1日の流れ>(月〜金)
9:30 登校 保護者による車での送迎・列車通学・自転車通学など
掃除
9:50 朝の会 今日の予定・昨日の報告・最近の話題などを話しながらコミュニケーションの練習
10:00 休憩 トランプ・ウノ・おやつなど
10:30 学習・実習 基礎的な教科学習、華道・茶道など文化芸術、調理実習など
12:00 昼食 各自お弁当持参
1:00 学習・実習
1:50 休憩
2:10 学習・実習
2:50 終わりの会
3:00 下校
3:30〜7:00 教育相談


6月日程表(一例として)

1 2 3 4 5 6 7
午前 校外学習(微小貝採集) 論語 社会(歴史) 名作映画鑑賞会 英語 こひつじの苑運動会参加
午後 園芸 工芸(貝細工) 工芸(貝細工) スポーツ(バトミントン)
8 9 10 11 12 13 14
午前 国語 論語 社会(歴史) 数学 京都学習旅行
午後 コミュニケーションスキル 園芸 美術(Tシャツ作り) 園芸
15 16 17 18 19 20 21
午前 振替休日 国語 理科(天文) 数学 こひつじの苑ボランティア 保護者面談日
午後 園芸 美術(Tシャツ作り) スポーツ
22 23 24 25 26 27 28
午前 校外学習(化石採集) 論語 コミュニケーションスキル 美術(Tシャツ作り) 英語 保護者面談日
午後 園芸 数学 社会(地理) スポーツ(卓球)
29 30
午前 国 語
午後 園 芸


     
    
特別授業(数学)                        


4. 一年間の取り組みから 

(1)学習について

 生徒たちが様々な学習活動をする根幹に「自分を見つめること」を置いた。自分が不登校であることを認め、それを「是」とすることを通して、自分自身の本質に触れ、自己の課題に気付き、1つ1つの課題を丁寧にこなし、成長につなげていくことができるように配慮した。国語・英語・数学などの基礎学習、また、対人関係の力をつけるためのコミュニケーションスキル、また、その時々の生徒の課題を克服するために行う校外学習を実施したが、生徒自身の自己肯定感や意欲を育てるのに多くの体験学習と時間が必要であった。従って、特別授業は例年の5分の1程度にとどまった。夏期キャンプも今年はできなかった。

@特別授業

今年度の通学生7名は、まだ自分の不登校を現実のこととして受け入れることが出来ず、自分が不登校でなかったらよかったのに、という思いを強く持っていた。自分も信じられず、大人も信じられないという状態で、多くの先生方に教えていただくことができなかった。

 * 華道   山中 知昌先生(池坊) 
 * 人権学習 遠藤 淳先生(舞鶴市教育委員会)
 * 体育   松岡 信次先生(城北中学校)
 * 数学   江宮 文夫先生(由良川中学校)
 * 理科   天文教室(綾部市天文館パオ)

A芸術鑑賞

  豊かな情操を養うために、機会をとらえできるだけ豊かな芸術に触れさせたいと願い、実施した。

 * 音楽鑑賞 「東京交響楽団演奏会:ピアノ=中村紘子」(舞鶴市文化会館)

Bボランティア体験学習

 * 毎月1〜2回、第一・第三金曜日に身体障害者療護施設「こひつじの苑舞鶴」で窓拭き
   計 12回 ・ 延べ人数 66

これは、15年前から続けている活動である。互いに1人の人間として、協力し合い、助けあって生きる姿勢を養いたいと願っている。  

京都市内ホームレス夜回り322日実施)
   特別授業「人権学習」から発展し、京都市内ホームレス夜回りを卒業生が中心になり企画し、ボランティアグループ「きょうと夜まわりの会」に合流した。
   舞鶴を夕方500に出発、93011時まで夜回り、午前2時帰舞というスケジュールであったが、保護者9名を含む21名の参加があった。社会の「見過ごすことのできない現実」として、私たちが関心を持ち働きかけ続ける必要があることを実感させられた。保護者からもこのボランティアの継続を求める声があがっていた。

C校外学習

 ◆春、秋の遠足、また魚釣りなど、自然の中で心身ともにゆったりとなごみ、人とのつながり方も積極的になった。また、ボーリングやスケートも楽しみのスポーツになったようである。
 ◆歴史や文化に触れ、味わうこと、大勢の人の中に出る練習を目的として、京都への歴史学習を2度実施した。 第1回 <清水寺・三十三間堂>  
 第2回 <時代祭>       (各自写真を撮り、歴史学習の年表作成の資料とした)

(2)スポーツ=フェスタ(体育祭)

 今年のテーマは、「気持ちに正直になって、本当の自分を出したい!今の自分を認めて、人を信じたい!人と一緒にいて安心できるようになりたい!」であった。9月に入り、テーマを決めるために現在の自分を見つめ、本質に迫り、自分の課題を探っていった。しかし、探っていくことのしんどさについていけなくなり、自己嫌悪に陥り、休みがちになる生徒も出てきた。その結果、前の段階に戻って指導しなければならない生徒もいた。今年は、テーマを決めることに精一杯で、パネルの絵は完成できなかった。しかし、当日は、舞鶴市教育委員会関係の先生方、市議会議員、舞鶴ライオンズクラブ、国際ソロプチミスト舞鶴、原籍校の校長先生、担任と諸先生方、OB、保護者等、総勢75名がかけつけて生徒たちを励まし、力づけてくださった。

(3)修学旅行

  本校では、毎年、広島の平和学習と奈良への歴史学習を交互に実施しており、本年度は、明日香・   奈良への歴史学習の年であった。330日〜4月1日の2泊3日で実施し、4名が参加できた。折りしも、3月に入って、「島庄遺跡」・「飛鳥京遺跡等151次調査」と大規模な発掘が相次ぎ、キトラ古墳についても興味ある報道がされており、楽しみな旅行となった。事前学習の内容は次の通り。

 1.歴史

   第1回 弥生時代:邪馬台国と女王卑弥呼
   第2回 古墳時代:古墳と大王  (参考:ビデオ「甦る古代都市―飛鳥―」NHKスペシャル)
   第3回  〃          (    〃 「謎の亀型石発掘」NHKクローズアップ現代)
   第4回 飛鳥時代:聖徳太子の時代(参考:ビデオ「聖徳太子」NHKその時歴史が動いた)
   第5回  〃  :大化の改新  (    〃 「大化の改新」    〃      ) 
   第6回 奈良時代:聖武天皇   (参考:ビデオ「東大寺のすべて」MBSテレビ)

 2.国語  万葉集 ・ 百人一首

(4)原籍校との連携

 保護者会やスポーツ・フェスタなどの諸行事へ、各学校から積極的な参加をいただいている。生徒一人一人についてたびたび連絡会を持ち、生徒及び家族への理解を深め、それぞれが果たす役割を探り、協力し合う関係を築けた。

(5)保護者会

 毎学期と必要に応じて臨時の保護者会を開いた。本年度は5回実施した。保護者は継続した教育相談によって子どもの不登校の現実を受け止め課題を明らかにすることができているので、全体会を通して更に深く問題を捉えるようである。また、子どもの問題としてだけでなく、家庭や保護者自身の問題にとらえ直して行く様子が見られた。また、親の本音を吐露する場でもあり、互いに理解し支えあっている様子もみられた。原籍校の先生方の出席も多く、率直に意見を交換し、本校・保護者・学校の三者の協力関係が強くなっていった。

5. 進路について 

 進路選択に該当する生徒は、中学3年生 3名・過年度生(17歳)1名であった。中学3年生3名は、まだ高等学校や就職など、大勢の人の中に入っていくことができるまでに成長していなかったので、原籍校とよく協議し、もう1年本校で自分を見つめ、対人関係の力をつけることに決定した。他の1名も同様であった。

 6. 教育研修会 

 今年度は1回のみ開催した。文部科学省から平成15年3月にだされた「今後の不登校への対応の在り方について」(報告)を学ぶことにした。わかりやすく解説し、不登校理解の進展に役にたったと思われる。